高血圧の補完代替療法について

1.高血圧に用いられる補完代替療法

(図)高血圧の症状:めまい、不規則な心拍、吐き気、疲労感ほか

補完代替療法の中には、血圧を下げるための生活習慣改善プログラムの要素として有望視されているものもあります。
研究の結果、瞑想、太極拳、気功、ヨガなどのいくつかの補完的健康アプローチが、高血圧の人の血圧に(薬剤と比べると小さいものの)有益な効果をもたらす可能性があることが示唆されています。
(各補完代替療法の詳細はこちらをご覧ください)

高血圧の治療に限ったことではありませんが、補完代替療法の利用を考える際には、“信頼できる情報”を探すことが極めて重要になります。
インターネット上には多くの情報が存在しますが、どの情報が信頼できるか見極めるのは一般の方では容易でないため、医師や薬剤師、消費者庁が推奨するアドバイザリースタッフ(健康食品管理士・食品保健指導士・NRサプリメントアドバイザー)に相談してください。

いくつかの補完代替療法は高血圧の補完代替療法として有益である可能性が示されていますが、一方で他の療法はむしろ害を及ぼす可能性すらあります。特に病院で何か薬剤を処方されている方は、組み合わせることができる補完代替療法に限りがあります。自己判断で間違った組み合わせを選択してしまうと病気が悪化したり、薬の効果を弱めてしまったり、副作用が強く出てしまうことが少なからずあります。

科学的根拠は限定されているものの、ココアやニンニク、魚油(オメガ3脂肪酸)、亜麻仁、緑茶または紅茶、プロバイオティクス、ハーブのローゼル(Hibiscus sabdariffa)など、特定の食品や栄養補助食品は高血圧症の患者さんの血圧を下げる効果があると示唆されています。

世界最大の健康食品に関するデータベースである「ナチュラルメディシンズ」に基づき各成分の有効性に関するエビデンスレベルを記載しました:
レベル1:有効
レベル2:おそらく有効
レベル3:確実ではないが有効性が科学的に示唆されている
レベル4:有効でない可能性がある
レベル5:おそらく有効でない
レベル6:有効でない

①カリウム:(有効性エビデンス:レベル2「おそらく有効」)

ヒトで実施された多くの研究で、カリウムが高血圧の治療に有効であるエビデンスが得られています。また、食品からのカリウム摂取量が多いと、脳卒中のリスクが最大20%低下することが判っています。

血圧が高い人は1日3,500~5,000mgのカリウムを食品から摂取することを心がけると良いようです。

これにより平均4~5mmHg血圧が下がると考えられています。

しかし深刻な副作用が生じる恐れがあるため、カリウムの過剰な摂取には気を付けてください。
また、腎臓に疾患を持っている方や消化管運動機能に障害がある方(例えば過敏性腸症候群の患者さんは血中のカリウム濃度が危険なレベルまで上昇する可能性があるので、カリウムサプリメントの摂取は控えてください。

2)亜麻の種子:(有効性エビデンス:レベル3「確実ではないが有効性が科学的に示唆されている」)

亜麻の種子や精油を摂取すると血圧が低下する可能性があることが示唆されています。血管狭窄がある患者さんが亜麻の種子入りパンを6か月間摂取すると、血圧が低下するようです。

亜麻の種子には血液が凝固するのを抑制する作用があることが報告されているため、出血性の疾患(血小板減少症・再生不良性貧血・急性白血病等)をお持ちの方は服用しないようにしてください。

また、降圧剤を服用している患者さんや低血圧の方は、亜麻の摂取により血圧が過度に低下する可能性がありますので注意してください。

(3)α-リノレン酸:(有効性エビデンス:レベル3「確実ではないが有効性が科学的に示唆されている」)

α-リノレン酸はn-3系の必須脂肪酸です。
クルミなどのナッツ類に豊富に含まれ、亜麻仁油や大豆油、赤身肉(牛・豚・羊)、乳製品にも含まれています。

α-リノレン酸を豊富に含む食品を摂ると、高血圧のリスクが約30%低下することが報告されています。

(4)L-アルギニン:(有効性エビデンス:レベル3「確実ではないが有効性が科学的に示唆されている」)

(写真:黒にんにく)“黒にんにく”は、にんにくを発酵熟成させた食品で、にんにくよりも多くの機能性成分を含むといわれている。単位重量当たりのL-アルギニン含有量は生にんにくの3倍。

L-アルギニンはアミノ酸の一種で肉や魚、乳製品に含まれています。
特に大豆、うなぎ、ニンニクやマグロがアルギニンを多く含む辱品です。

L-アルギニンは日本薬局方に記載されており、「手術後の回復」や「高血圧とタンパク尿を認める妊娠高血圧腎症」等の治療に医薬品として用いることがあります。

L-アルギニンを経口摂取すると高血圧の人、健康な人、いずれも血圧が低下するエビデンスが報告されています。

しかし大量に摂取したり、注射したりすると腹痛や下痢、吐き気、痛風、アレルギー、気管支ぜんそくの悪化や低血圧等の副作用を起こすことがあります。

(5)カルシウム:(有効性エビデンス:レベル3「確実ではないが有効性が科学的に示唆されている」)

カルシウムは歯や骨の形成に必須なミネラルです。

また、心臓や神経系、血液凝固系が機能するために必要です。
カルシウムが欠乏すると「低カルシウム血症」となり、筋肉のけいれん・骨そしょう症(骨がスカスカになる)・くる病(小児において骨が軟化する)等を発症します。

カルシウムサプリメントの摂取により、高血圧の患者さんのみでなく健康な人も血圧がわずかに低下(1~2 mmHg)することが報告されています。

複数の研究により、カルシウムの1日摂取量は1,000~1,300 mgが推奨されており、これを超える量の摂取は高齢者の心臓発作リスクを高めることが報告されています。
許容量を超えたカルシウムの摂取は高カルシウム血症や腎結石、腎不全などのリスクが高まる恐れがあります。

(6)魚油:(有効性エビデンス:レベル3「確実ではないが有効性が科学的に示唆されている」)

n-3系不飽和脂肪酸として知られるEPAやDHAは、特にサバ、ニシン、マグロ、サケ、タラや、クジラ・アザラシにも多く含まれています。魚油は心臓と血管に関連した疾患に対するサプリとして、非常に多く使用されています。

中等度から重度の高血圧患者さんが魚油を服用すると、わずかに血圧が下がることが報告されています。
また、患者さんによっては、降圧剤と魚油を併用すると降圧剤の効果が高まることが示唆されています。

魚油は血液凝固を抑制するため、過剰に摂取すると出血のリスクが高まる恐れがあります。また、免疫機能が抑制されて感染症にかかりやすくなる恐れがあります。臓器移植後の患者さんなど、免疫抑制剤を使用している方は医師などの管理下で摂取するようにしてください。

(7)カカオ:(有効性エビデンス:レベル3「確実ではないが有効性が科学的に示唆されている」)

(写真)カカオの実。種から外側の硬い殻まで利用されています。

長い間、「ごちそう」として食べられてきたカカオですが、現在は薬としても利用されています。カカオの種は感染性腸疾患・下痢・気管支喘息・気管支炎・去痰に利用され、カカオの種皮は肝臓や膀胱、腎疾患、糖尿病、強壮薬として使用されます。

高血圧の人、および普通の人が2~18週間にわたりビターチョコレート、またはカカオ製品を食べると、収縮期血圧が2.8~4.7 mmHg、拡張期血圧が1.9~2.8 mmHg、それぞれ低下することが報告されました。

カカオは通常カフェインを含むため、過剰に摂取すると神経過敏、多尿、不眠、動悸などの副作用が起こる場合があります。
また、皮膚のアレルギー反応や吐き気、片頭痛を起こす可能性があります。

(8)発酵乳:(有効性エビデンス:レベル3「確実ではないが有効性が科学的に示唆されている」)

発酵乳は牛乳が乳酸桿菌やビフィズス菌などの乳酸菌により発酵することで生産されます。

粉末状の発酵乳を主成分とする製剤を4週間摂取することで、高血圧患者の収縮期血圧が低下することが示唆されていますが、拡張期血圧の低下については示唆されていません。

また別の研究では、ガンマアミノ酪酸(GABA:ギャバ)を含む発酵乳製品を12週間摂取することで、血圧がやや高めの女性の血圧が低下することが報告されています。

(写真)2022.10. 青森県むつ市恐山の宿坊で出た朝ごはん。
朝のお勤め後に精進料理をいただくと、なんだか身が軽くなりました。photo by 金ひげ先生

高血圧の方が注意すべきサプリメントもあります。
ダイダイ(橙、ビターオレンジとも呼ばれる)・エフェドラ・高麗人参・甘草などの成分を含むサプリメントや漢方薬は血圧を上げる可能性があり、高血圧の治療に使われる薬を含む医薬品と有害な相互作用をする可能性があります。

服用している、または服用したいと考えているすべての栄養補助食品について、かかりつけのお医者さんに伝えてください。
いずれの場合も高血圧の治療に使われる薬に匹敵する効果があるとされるサプリメントはなく、補助的に利用できる可能性はあるものの、薬剤治療を完全に置き換えることはできません。

鍼

軽症の高血圧では鍼灸治療により血圧が下がることが示されています(下図)。

(図)高血圧患者と健常者における鍼の降圧効果:
 高血圧群のみにおいて降圧効果がみられる (参照:全日本鍼灸学会ホームページより抜粋)

鍼灸における血圧調節作用の大変興味深い点は、正常範囲から逸脱した血圧(すなわち高血圧または低血圧)のみに作用し、正常な血圧には影響を及ぼさない点にあります。これに対し薬剤治療は正常な血圧にも通常作用を及ぼします。

補完代替療法における鍼灸の優れた点である、薬物治療との組み合わせ治療のしやすさが、高血圧治療においても当てはまると考えられます。

鍼灸による治療が血圧を下げるメカニズムについて、動物を用いた研究では交感神経の抑制が関係していることが示されました。

2013年に米国心臓協会は、従来の薬物療法に加えてバヨガや瞑想を用いることで、血圧を下げることができることを公認しました。ヨガを行うことで呼吸回数や心拍数が低下、血中乳酸濃度の低下が継続することで、高血圧や抗コレステロール血症が改善される、と考察されています。

太極拳やヨガなどは、十分に訓練された指導者が指導すれば、健康な人にとっては一般的に安全です。ただし、健康状態に問題がある方には、適切でないアプローチもあります。例えば高血圧の方は、ヨガのポーズを一部変更したり、避けたりする必要があります。高血圧の方は、医療機関や補完医療を考えている方は補完医療従事者やインストラクターに相談してみてください。

2.高血圧の概要

高血圧は最も一般的な成人病の一つで、成人の半数以上が罹患しています。

血圧は1日のなかで上がったり下がったりします。
また、運動をしたりストレスを感じたりすると、血圧は一時的に上昇しますが、一時的に血圧が高くてもこれは「高血圧」として診断されることはありません。

安静時の血圧を何度か測定したときに最高血圧が140mmHg以上、あるいは最低血圧90mmHg以上の場合に高血圧として診断されます。

高血圧になると血管が徐々に厚く、硬くなります。
これを放置すると心臓、血管、腎臓などがダメージを受けて、心筋梗塞・心不全・脳卒中・慢性腎臓病などを合併症として発症します。

3.現代医学による高血圧の治療

健康的な食事(減塩等)や運動、健康的な体重の維持、アルコール摂取の制限、ストレスの管理などのライフスタイルの改善により高血圧の管理と上記合併症の予防が可能ですが、生活習慣の改善だけでは十分に血圧が下がらない場合は薬で治療することもあります。

高血圧の治療は薬剤(降圧剤)を用いる「薬物治療」と、生活習慣の改善や睡眠時無呼吸症候群の改善を目的とした呼吸法の実践といった、薬剤を用いない「非薬物治療」とに大別されます。

心筋梗塞、心不全、脳卒中等の発症リスクが高い患者(高リスク患者)さんには薬物治療が優先して施されますが、高血糖等の合併がない患者さん・若い患者さん(低・中等度リスク患者)には、まずは非薬物治療が試みられます。高リスク患者においても、非薬物治療により薬物治療の効果が高まることが示されており、すべての高血圧症患者さんに推奨される治療法です(参照:高血圧治療ガイドライン2019年)。

注:脳卒中や心臓病の既往歴がある患者、糖尿病や蛋白尿を伴う慢性腎臓病を合併している患者は特に高リスクに分類される。また、それより低いが喫煙者・65歳以上・脂質異常症合併もリスクを上昇させる。

高血圧の非薬物療法は、
・減塩を中心とした食事療法
・適度な運動による肥満の改善
・アルコール摂取の制限
を中心とする生活習慣の改善により行われます。
生活習慣の改善は正直少し骨が折れますが・・・高血圧の発症予防・進展抑制に有効なことがはっきりしており、さらに上記の通り薬物治療の効果を増強するので、高血圧の治療において大変重要です。

薬物治療には大規模臨床試験におけるエビデンスから、利尿薬・カルシウム拮抗薬・ARB(アンジオテンシンⅡ受容体)拮抗薬・ACE阻害薬が第一選択で用いられます。これらの薬剤はそれぞれ作用機序と副作用に特徴があります。
比較的軽症の高血圧に対しては、上記の薬剤いずれかが単独で投与されますが、血圧が思うように下がらない場合には2剤、3剤を組み合わせて投与する場合もあります。


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金ひげ先生
製薬企業で25年間新薬の研究に従事し、感染症・免疫炎症・中枢領域の医薬品研究開発に深い知識を有する他、国内外の最新医療動向にも詳しい。 最近は漢方やハーブ等、東洋医学にも強い関心をもつ。 薬学博士(Ph D、東京大学)、食品保健指導士、健康食品管理士/食の安全指導士、薬草コーディネーターの資格を保持。
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