ぜんそくの補完代替療法について

1.ぜんそくに用いられる補完代替療法

鍼

ぜんそくに対する鍼治療の効果を評価した結果が複数報告されています。一部の研究では鍼の施術により①使用する薬剤量の減少、②症状の緩和、③生活の質の改善 が示されましたが、ほとんどの研究では効果が見られませんでした。

ぜんそく患者さんの呼吸を整えて血液中の酸素と二酸化炭素のバランスを整えるための呼吸法に関心が高まっています。
これまでに実施された7つの臨床試験(ランダム化比較試験)では、呼吸法により症状が改善する傾向が見られましたが、十分なエビデンスとするにはさらなる研究が必要です。

伝統的に治療に使用されていた魚油・カロリー制限食・塩分制限・21種類のハーブ・ビタミンC・セレン等のぜんそく治療における有効性を調べた研究がありますが、すべて十分なエビデンスが得られていませんでした。

ぜんそくの治療に限ったことではありませんが、補完代替療法の利用を考える際には、“信頼できる情報”を探すことが極めて重要になります。
インターネット上には多くの情報が存在しますが、どの情報が信頼できるか見極めるのは一般の方では容易でないため、医師や薬剤師、消費者庁が推奨するアドバイザリースタッフ(健康食品管理士・食品保健指導士・NRサプリメントアドバイザー)に相談してください。

病院で抗ぜんそく剤を処方されている方は、組み合わせることができる補完代替療法に限りがあります。自己判断で間違った組み合わせを選択してしまうと病気が悪化したり、薬の効果を弱めてしまったり、副作用が強く出てしまうことが少なからずあります。

2.ぜんそくの概要

日本では、子どもの5~7%、大人の3~5%がぜんそく(喘息)にかかっているといわれています。ぜんそくは、呼吸をするときの空気の通り道(気道)が、アレルギーなど炎症によって敏感になり、けいれんを起こして狭くなることで起こります。

子どものぜんそくは男子に比較的多く、アレルギーが原因であることがほとんどとされています。小学校高学年ぐらいから発作がなくなる時期がありますが、20~30歳代に再発することもあります。
大人のぜんそくの6~8割が大人になって初めて発症した人たちで、男女比も変わりません。子どものぜんそくに比べ、原因が明確に特定できない場合が多いとされています。

「ゼーゼー、ヒューヒュー」といった喘鳴(ぜんめい)や、激しい咳が出る、呼吸が苦しくなるといった症状が、ぜんそくの発作です。
ぜんそくの人の気管支をはじめとする気道の粘膜には、好酸球(白血球の一種)やリンパ球を中心とした細胞が集まり、発作がおさまっているときでも炎症が起こっています。そのため、「ちょっとした刺激」で気管支を取り囲む筋肉が収縮し、空気の通り道が狭くなる「気道閉塞」が起こりやすい状態が続いています。

気管支に炎症(アレルギー)を起こす物質は「アレルゲン」と呼ばれますが、ぜんそくの主な原因となるものは次のものです:
①ダニ
②ハウスダスト
③ペット
④花粉
⑤食物

また、上で述べた「ちょっとした刺激」により気管支の収縮(=ぜんそくの発作)を起こす物質として、運動・たばこ(の煙)・ストレス・風邪等の感染症・大気汚染・気温/天候の変化・香水の匂い 等が挙げられます。

ぜんそくは場合によっては死亡することもある病気です。
気になる場合は自己判断せずに医師に相談してください。
・発作性の激しい咳
・息苦しさ
・呼吸するとヒューヒュー、ゼーゼー音がする

場合にはすぐに受診しましょう。

3.現在医学におけるぜんそくの治療

ぜんそくの薬物療法は、発作が起きないように予防する吸入ステロイド薬が第一選択薬です。また、長期に服用することで気道の炎症を抑える長時間作用型吸入β2刺激薬やテオフィリン徐放薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬などを併用します。

ぜんそく治療ガイドラインでは、軽症(治療ステップ1)から重症(治療ステップ4)ごとの処方が明確にされています。吸入ステロイド薬をベースにして、症状が重い場合には吸入ステロイド薬の増量とほかの薬剤を上乗せしていきます。

薬物療法によるぜんそく症状のコントロール率は高く、上記の治療ステップに沿った服薬を行うことが重要です。

ただしほかの医療と同様、副作用はあります。
ぜんそくに用いる吸入ステロイド薬は、気管支にかなり限局して作用する薬であるため、ステロイド経口薬のような全身性の副作用はほとんど無いですが、声がかれる、のど粘膜の免疫が落ちるためにカンジダというカビの一種が増える場合があります。
また、吸入ステロイドと併用する薬剤にも動悸や手の震え、口が渇く、尿が出にくくなる、吐き気、等の副作用がそれぞれ出現することがあります。

4.所見

ぜんそく治療についてぜんそくはつらくて、厄介な病気ですが、西洋医学による医療が非常に高い効果を示します。
軽症から重症の患者さんまで、しっかりした治療ステップが確立されており、さらに近年になり開発された複数の抗体医薬が、これまで「難治性ぜんそく」として有効な治療法がなかった患者さんの症状をかなり改善できるようになりました。

一方でぜんそくの治療に用いられる補完代替療法はいずれもエビデンスレベルが不十分であり、あえてこちらを選択する必要もないように思いました。

ただ、治療薬の副作用として起こる声がれや口の渇き、吐き気、その他の副作用を軽減する補完療法は存在しそうです。その辺は今後、是非深掘りして調べてみたいと思います。

2023.6. 東京都桧原村の払沢の滝。
 辺りを包む冷気と滝の音で身が引き締まる思いでした。photo by 金ひげ先生

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金ひげ先生
製薬企業で25年間新薬の研究に従事し、感染症・免疫炎症・中枢領域の医薬品研究開発に深い知識を有する他、国内外の最新医療動向にも詳しい。 最近は漢方やハーブ等、東洋医学にも強い関心をもつ。 薬学博士(Ph D、東京大学)、食品保健指導士、健康食品管理士/食の安全指導士、薬草コーディネーターの資格を保持。
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