3.AMDに用いられる補完代替療法
![AMD- - あぽてけ診療所](https://wellness-science.tokyo/wp-content/uploads/2023/09/AMD--1024x542.jpg)
日本眼科学会が出した「加齢性黄斑変性の治療指針2012」では、「萎縮型」AMDの予防的治療において、禁煙・食事等の生活習慣改善と抗酸化サプリメントの摂取が推奨されています。
AMD患者に対し1996年に開始された臨床試験(ARED試験)では、ビタミンC 500mg、ビタミンE 400国際単位、銅2mg、亜鉛80mg、ベータカロチン15mgを配合した栄養補助食品が、AMDの進行を中程度から晩期まで大幅に抑制することが示されました。
しかし、これと並行して実施された研究により、「喫煙者でベータカロチンのサプリメントを摂取した人」は、肺がんを発症するリスクが高いことが明らかになりました注)。
注):あくまでも喫煙者に対する結果で、健常者に対して発がん性が高まると示されたわけではない
2006年に始まった新たな臨床試験(ARED試験2)では、βカロテンの代わりにルテイン10mg(ルテイン:ケール・赤ジソ・モロヘイヤに多く含まれる成分)とゼアキサンチン2mg(ゼアキサンチン:パプリカ・トウモロコシ・サフランに多く含まれる成分)を配合した処方と、オリジナルのβカロテン配合の処方を比較しました。
![パプリカ - あぽてけ診療所](https://wellness-science.tokyo/wp-content/uploads/2023/09/パプリカ-1024x682.jpg)
β-カロテンは喫煙者に有害であることが示されていたため、β-カロテンを含む製剤は、喫煙経験のない人や禁煙した人にのみ投与されました。
本試験開始より5年後、参加者4,203人のうち3,883人について、参加者のAMDが進行しているかどうか、肺がんと診断されているかどうかなどの情報を収集しました。本調査において喫煙経験のある参加者ではβカロテンのサプリメント摂取が肺がんリスクを約2倍に高めましたが、ルテイン・ゼアキサンチン配合を摂取した参加者では肺がんリスクの上昇は見られませんでした。さらに10年後の時点において、ルテインとゼアキサンチンを投与されたグループは、β-カロテンを投与されたグループと比較して、AMDの進行リスクがさらに20%減少していました。新しい分析を行った研究者は、ルテインとゼアキサンチンは、ベータカロチンの代替品として適切であり、長期間の使用において安全かつ有効であると述べています。
AMDの治療に限ったことではありませんが、補完代替療法の利用を考える際には、“信頼できる情報”を探すことが極めて重要になります。
インターネット上には多くの情報が存在しますが、どの情報が信頼できるか見極めるのは一般の方では容易でないため、医師や薬剤師、消費者庁が推奨するアドバイザリースタッフ(健康食品管理士・食品保健指導士・NRサプリメントアドバイザー)に相談してください。
いくつかの補完代替療法はAMDの補完代替療法として有益である可能性が示されていますが、一方で他の療法はむしろ害を及ぼす可能性すらあります。特に病院で何か薬剤を処方されている方は、組み合わせることができる補完代替療法に限りがあります。自己判断で間違った組み合わせを選択してしまうと病気が悪化したり、薬の効果を弱めてしまったり、副作用が強く出てしまうことが少なからずあります。
(1)健康食品/サプリメント
以下、加齢性黄斑変性の補完療法として用いられる健康食品/サプリメントに関する科学的エビデンスのレベルです。
世界最大の健康食品に関するデータベースである「ナチュラルメディシンズ」に基づき各成分の有効性に関するエビデンスレベルを記載しました:
レベル1:有効
レベル2:おそらく有効
レベル3:確実ではないが有効性が科学的に示唆されている
レベル4:有効でない可能性がある
レベル5:おそらく有効でない
レベル6:有効でない
①ルテイン:(有効性エビデンス:レベル3「確実ではないが有効性が科学的に示唆されている」)
![ほうれんそう - あぽてけ診療所](https://wellness-science.tokyo/wp-content/uploads/2023/09/ほうれんそう-1024x682.jpg)
ルテインはブロッコリー、ホウレンソウ、ケール、トウモロコシ、キウイフルーツ、ぶどう、オレンジジュース、ズッキーニに多く含まれる色素成分(黄色)で、眼の網膜にも含まれています。
体内のルテインの量は果実や野菜の摂取量(食事として食べる量)に依存します。
人口調査によると、食事から高用量のルテインを摂取している人々は、AMDを発症するリスクが低いことが示唆されています。
ただし、日常的にルテインを良く摂取している人がさらに摂取量を増やしても、それ以上AMDのリスクが低下することはないようです。ルテインのサプリメントをある程度継続して摂取することで、AMDの症状の一部を改善する可能性があります。ただし、AMDの進行を抑える効果は明らかでありません。
ちなみに、ルテインは白内障の予防効果も報告されています。
高用量のルテインを摂取することで、白内障の発症リスクが低下する可能性が示唆されています。
②ベータカロチン:(有効性エビデンス:レベル3「確実ではないが有効性が科学的に示唆されている」)
![ベータカロチン - あぽてけ診療所](https://wellness-science.tokyo/wp-content/uploads/2023/09/ベータカロチン-1024x682.jpg)
ベータカロチンは果物や野菜、全粒粉などに含まれる赤やオレンジの色素成分です。
非常に多くの疾患を治療する目的で使用されることが多く、特定のがん、心疾患、白内障、変形性関節症、AMD、慢性疲労症候群、皮膚の加齢性変化、エイズ、アルコール依存、アルツハイマー型認知症、うつ病、糖尿病、てんかん、高血圧、不妊、関節リウマチ、統合失調症・・・などに用いられ、さらにがんの化学療法における副作用を軽減する目的で用いる人もいるようです。
③ビタミンB12:(有効性エビデンス:レベル3「確実ではないが有効性が科学的に示唆されている」)
![あさり - あぽてけ診療所](https://wellness-science.tokyo/wp-content/uploads/2023/09/あさり-1024x682.jpg)
(写真)ビタミンB12は貝類やレバーに多く含まれます。
ビタミンB12含有量(食品100 gあたり):しじみ(62.4 μg)・あさり(52.4 μg)・レバー(44-53 μg)、いわし(29.3 μg)
ビタミンB12は肉や魚、乳製品等に含まれています。
さまざまな疾患の治療、および身体機能の増強を目的に利用されており、記憶喪失・アルツハイマー型認知症・心疾患・動脈血栓・手術後の動脈の閉塞リスク低減や男性不妊、糖尿病、うつ病、骨粗しょう症、炎症性腸疾患、下痢、気管支喘息、アレルギー、皮膚のあれ、にも処方されます。
複数の研究でビタミンB12と葉酸、およびビタミンB6などのビタミン類を併用することがAMDの予防に有効である可能性が示されています。
④ビタミンB6:(有効性エビデンス:レベル3「確実ではないが有効性が科学的に示唆されている」)
![ビタミンB6(にんにく) - あぽてけ診療所](https://wellness-science.tokyo/wp-content/uploads/2023/09/ビタミンB6(にんにく)-1024x682.jpg)
(写真)にんにくはビタミンB6を豊富に含みます(にんにく100gあたり1.8 mg)。
ビタミンB6の推奨摂取量(1日当たり)は、男性:1.4 mg、女性:1.2~1.3 mgです。
ビタミンB6(ピリドキシン)は、穀物や豆、にんにく、とうがらし、レバーに多く含まれています。心疾患や月経前症候群(PMS)、うつ病の治療にも用いられています。
複数の研究でビタミンB6を葉酸、およびビタミンB12などのビタミン類を併用するとAMDに起因する視力低下予防に有効である可能性が示されています。
⑤葉酸:(有効性エビデンス:レベル3「確実ではないが有効性が科学的に示唆されている」)
![葉酸(いちご) - あぽてけ診療所](https://wellness-science.tokyo/wp-content/uploads/2023/09/葉酸(いちご)-1024x682.jpg)
(写真)いちご100gには葉酸が90 μg含まれています。
ホウレンソウやブロッコリー、カボチャにも葉酸を多く含む食品です。
葉酸欠乏は肝臓の疾患や潰瘍性大腸炎との関連が良く知られています。
また妊婦さんが摂取することで、流産や先天異常(神経管奇形)を予防できること、さらに妊婦中の高血圧等の合併症を予防できることが報告されています。
ほかに結腸がんや子宮頸がん等さまざまながんの予防や、糖尿病の患者さんにおける神経痛の緩和に用いられたり、心疾患・脳卒中の予防、皮膚の吹き出物、加齢性難聴、骨粗しょう症にも用いられます。
複数の研究で葉酸をビタミンB6、およびビタミンB12などのビタミン類を併用するとAMDに起因する視力低下予防に有効である可能性が示されています。
⑥亜鉛:(有効性エビデンス:レベル3「確実ではないが有効性が科学的に示唆されている」)
![生ガキ - あぽてけ診療所](https://wellness-science.tokyo/wp-content/uploads/2023/10/生ガキ-1024x627.jpg)
亜鉛を多く含む食品を摂っている方は加齢性黄斑変性を発症するリスクが低いことが報告されています。
また、亜鉛と抗酸化作用のあるビタミン(ビタミンCなど)を含むサプリメントを摂取することで、視力低下がある程度抑制される可能性や、加齢性黄斑変性が悪化する可能性の高い時に病気の進行を予防する可能性が示唆されています。
抗酸化ビタミンと亜鉛を併せることが重要で、亜鉛だけ摂取しても加齢性黄斑変性に効果がないようです。
⓻ビタミンE:(有効性エビデンス:レベル4「有効でない可能性がある」)
![ビタミンE - あぽてけ診療所](https://wellness-science.tokyo/wp-content/uploads/2023/08/ビタミンE-1024x684.jpg)
ビタミンEを単独または他の抗酸化作用のある食品と一緒に摂取しても加齢に伴う視力低下を予防、もしくは治療する効果がないことが示唆されています。
2.AMDの概要
![AMD- - あぽてけ診療所](https://wellness-science.tokyo/wp-content/uploads/2023/09/AMD--1024x542.jpg)
加齢黄斑変性(AMD)は、高齢者の失明原因として最も多い疾患です。
モノを見るときに重要なはたらきをする“黄斑”という組織(網膜の中心にある)が、加齢とともにダメージを受けて変化し、視力の低下や色覚異常を引き起こします。
日本人の50歳以上の80人に1人が発症する病気で、失明原因としては第4位、欧米では失明原因の第1位といわれています。
喫煙や高脂肪食はAMDのリスク因子と考えられています。
治療により視力低下を遅らせることができますが、AMDの根本的な治療法は現在のところ存在しておらず、最終的に失明に至る可能性があります。
加齢黄斑変性には「萎縮型(いしゅくがた)」と「滲出型(しんしゅつがた)」の2種類があり、それぞれ原因が違います。
「萎縮型」は、黄斑の組織が加齢とともに萎縮する現象です。症状はゆっくりと進行し、急激に視力が低下することはありません。
「滲出型」では、網膜のすぐ下に新しい血管(新生血管)ができて、この血管から漏れ出た液体(血液成分)が黄斑の組織にダメージを与え、視覚障害を引き起こします。
3.現代医学によるAMDの治療
「萎縮型」のAMDは進行が遅いうえ、これといった治療法が現在のところ存在しないため、通常経過を観察します。
一部の「萎縮型」AMDは「滲出型」へと移行して、急速な視力低下を起こすことがあるので、定期的に眼科を受診してください。
一方で「滲出型」AMDは進行が速いため、積極的に治療を行う必要があります。
AMDの治療は早期に開始することがとても大事です。いったん失われた視野は完全に取り戻すことができないですが、早く治療を始めれば治療後も視界にほとんど影響がなくてすみます。
現在行われている治療法は、①光線力学的療法、②抗血管新生療法(抗VGEF薬治療)です。かつては高出力のレーザーを照射して新生血管を焼灼するレーザー治療や、新生血管を外科的に抜去する手術も行われていましたが、視力低下や網膜剥離のリスクがあるため、現在行われることはほとんどなくなりました。
①光線力学的療法:光に反応する薬剤を体内に注射し、それが新生血管に到達したときに弱いレーザーを照射して新生血管を破壊する方法です。光に反応する薬剤を全身に投与するため、日光によりやけど等が生じる可能性があり、2日間遮光した部屋で過ごす必要があります。光線力学的療法は低出力のレーザー照射で治療効果が得られるため、視力低下のリスクが低いのがメリットです。
②抗血管新生療法(抗VGEF薬治療):新生血管を沈静化させる薬を眼(硝子体内)に注射する方法です。
抗VGEF薬治療は近年、最も一般的なAMDの治療法となりました。
この方法では新生血管の増殖や成長を促すVEGFという物質の働きを抑制する薬剤を眼に直接投与して、新生血管が増えるのを抑制します。薬剤によりVEGFの働きを抑制すると、すでに出来てしまった新生血管も小さくすることができます。
抗VGEF薬治療が今までの加齢黄斑変性治療と大きく違う点として、早期に治療を開始すると一度低下した視力も回復することができる点が挙げられます。
早期に発見し治療を開始できれば、視力回復の可能性が高くなります。また、注射による治療のため、外来で治療を受けることが可能で、仕事や家庭と両立しながら治療を受けられます。
抗VGEF薬治療は大変優れていますが欠点が2つあります:
・「継続治療の必要性」:抗VGEF薬治療は一度でAMDが完治する訳ではなく、AMDの進行を抑えるために通常2~3か月に一度、定期的に薬剤を眼に注射しなくてはなりません。
・「薬剤の値段が高い」:抗VGEF薬治療に使われる薬剤は一回(一本)あたり15万円ほどするため、保険適用でも大きな負担がかかります。
![IMG_0983 - あぽてけ診療所](https://wellness-science.tokyo/wp-content/uploads/2023/10/IMG_0983-1024x768.jpg)
2023.9. 奥入瀬渓流。心が洗われました・・・。 photo by 金ひげ先生